ラストと靴の関係

靴というのは足にとって最も親密な存在ですが、もっと言うと身体全体を支え、歩行活動を支配する装具でもあります。それが良い方向に機能するか否かは、靴にとってのコアともいえるラスト(木型)にかかっています。

ラストとは何でしょうか。一言でいうと、靴の形を作る元となる原型のことを指します。そしてそれが「木」型と呼ばれる理由は、かつては木を削って作られたからです。今はプラスチックや金属を使うことの方が多いですけどね。
なお、ラストは英語で書くと 'last' ですが、語源は古期英語 'læste' = 「足跡」から来ています。みなさんがよく知っているあの 'last' とは語源が違うので別の概念としてとらえてください。

基本的な考え方としては、ラストの形と自身の足の形が近ければ近いほど自然な履き心地となり、足の健康にも良いです。仮にラストの幅が狭く、甲が低いタイプのものであるのに対し、着用者の足が幅広で甲高だったとしたら、着用者は大変な圧迫を足にまとうことになります。
とはいっても、自分の足の形に完璧に合ったラストなどというのは、オーダーメイドでもしない限り存在しません。なので、既製品を買う際はある程度の妥協も必要です。購入するサイズを上げ下げする方法がポピュラーだと思いますが、インソール(中敷き)を入れ替える、靴擦れ防止のパッチを貼るなんていう方法もありますね。

ただ、靴をファッションアイテムとして見た場合、自分の足と合ったラストのものを履くのが必ずしも正解かと言われると、これまた微妙な話です。
多くの場合、幅が狭めで本体からつま先にかけてシャープなシルエットのものが美しい靴・セクシーな靴であると考えられています。百貨店などで売られている高級なインポートものはだいたいこの特色をもっています。
対して幅広・甲高のラストの靴というのは、どうしても先述のものと比べると美観で劣ってしまいます(わたしも幅広・甲高なので悔しい限りですが、これは認めざるを得ません、、)。
トレンドやお洒落に敏感な方であれば、足元のシルエットが全体の印象に与える影響の大きさを直感的に理解しているのではないかと思います。なので、時には快適さを犠牲にしてでも見た目の美しい靴を選ぶという選択肢も出てくるわけです。

もっとも、窮屈さだとかラストが合わないことの違和感から生じる足元のおぼつかなさというのは、極端な話、姿勢や歩き方を貧相にさせてしまうことにもつながります。これではせっかく良い靴を履いてお洒落をしていても全部台無しです。靴を選ぶときは、こういった様々な要素を天秤にかけて、我慢できるポイントを探っていかなければならないのです。

靴というのは何と業の深いアイテムでしょうか、、しかし着用者の我慢と妥協を一身に背負う存在と考えると、そこには何とも言えない儚さも感じます。
靴を買うことは洋服を買うことよりも心理的なハードルが高くなりがちなのは、このようなシリアスな宿命によるものかもしれません。

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