パンプスとスニーカー

電車の中や渋谷の街角では、ついつい周囲の足元に目が行ってしまいます。
そこでつくづく感じるのは、「パンプスを履いている人が本当に少なくなったなあ」ということです。大部分の人がスニーカーを履いています。まあ最近は暑くなってきたのでサンダルも目につきますし、ローファーだって流行ってきているし、、と細分化すればキリがありませんが、雑に言ってしまうと「スニーカー1強」の時代だと個人的には感じます。

パンプスというと、10~20年前までは社会の最前線で活躍する女性の象徴と言ってもいいほど需要の高いアイテムでした。クリスチャン・ルブタンやマノロ・ブラニクのパンプスは多くの女性にとってあこがれのアイテムだったのではないでしょうか。
ところが彼女らのウィッシュリストはここ数年で、miu miuやシャネル、バレンシアガ、ヌメロ・ヴェントゥーノといったブランドのスニーカーに置き換えられました。世に出回っている比較的安価なスニーカーのソールはこれらのブランドのソールを模倣しているケースが多く、実際かなり売れるものです。まあ、その辺の話はいったん置いておきましょう。

今回はなぜスニーカーの需要がこんなにも高まっているかについて考えていきたいと思います。
近年は韓国アイドルやストリートカルチャーの影響が強く、スニーカー需要を後押ししているのも注目したい点ですが、もっと本質的な理由があります。

一言で言ってしまうと「楽だから」です笑

でもこの「楽」というワードには2つの側面があります。
1つは「歩行が楽」ということ。これはもはや言うまでもないことでしょう。
そしてもう1つですが、「楽に盛れる」ということです。何のことかわかりますか?
身長です。以前は、身長を7cm盛るためにはヒール高が7cmあるパンプスを履くのが主流でした。これ、慣れてる人でないとけっこうしんどいです。身長を盛る代わりに足の健康と自由度を犠牲にする必要がありました。ところが今は厚底ソールとかチャンキーソール、ボリュームソールなどと謳った魔法のスニーカーが多数登場し、7cm程度なら簡単に盛ることができるようになったのです。それに加えて、スニーカーならではの快適な履き心地もある。もう我慢してパンプスを履く必要はないのだと、多くの人が考えるようになりました。

この傾向が顕著になったのは、2017年ごろにバレンシアガがトリプルSという、いわゆるダッドスニーカーを世に放ったあたりだと思います。トリプルSがなかったら、もしかしたら厚底スニーカーは絶大なブームとまではいかなかったかもしれません。

一方では、2019年ごろにSNS界隈で沸き起こった#KuToo運動なんてのもありました。「女性を社会的に抑圧せしめる悪しき象徴」とばかりに、パンプス(ハイヒール)が槍玉に挙げられていましたよね。

パンプス衰退に追い打ちをかけたのはやはり、2020年以降のコロナ・パンデミックでしょう。ライフスタイルの価値観が根こそぎ覆る出来事でした。働き方も、リモートワークやノマドスタイルなど、既存のルールに縛られない方式が急増し、ますますパンプスの必要性が希薄になっていったのです。そこから現在に至る、、という感じでしょうか。そう考えると、ここ10年は靴にとって激動の時代だったなとも思います。

こんなふうに書いておきながらなんですが、パンプスは本当に美しいアイテムだと思っています。歩行の快適性はともかく、パンプスが女性の勝負靴の最適解であることに異論をはさむ人は少ないでしょう。以前のようにフルに日常使いしなくてもよいとは思いますが、冠婚葬祭やデートなど、本当にそれが必要な場面でビシっと決めるためのアイテムであってほしいので、わたしはこれからも全力でパンプスを作ります。パンプスを作りたいと思っている方、ぜひご相談ください。あ、もちろんスニーカーも大歓迎ですよ。

何だかポジショントークみたいな流れになってしまい、スミマセン。

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